「医者を好きになってしまった患者」というお悩み相談をいただきました。この関係性での恋愛というと一般的ではないようにあなたはお感じかもしれません。
でも、実際は患者さんが担当医を好きになってしまうというのは非常に多いケースです。もちろん事情は様々なんですが、中には一定のパターンが見られたりします。
今回のご相談がそれに該当するかどうかはわかりませんし、「恋愛Jp」本編ではその患者さんご自身がご覧になっていたのであえてその事例は紹介しませんでした。
ただこちらのサイトはおそらくご覧になっていないので少しだけ触れたいと思います。
精神分析学においてフロイトが「転移性恋愛」という概念を打ち出しました。
フロイトは患者さんと接するうちに、患者さんが自分にとって過去に重要だった人に持った感情を、目の前にいる治療者に貼り付けて感じるようになることがあると気づいたんですね。
この現象を「転移」と言います。で、転移性恋愛というのは、この転移の結果として患者さんが治療者に恋愛感情を抱くことなんです。
「自分にとって過去に重要だった人」っていうのが超重要ポイントなので、「それって誰？」って話ですよね。
ここを掘り下げていくと人間の切なさや愛しさのような気持ちを感じずにはいられないのですが、長くなるのでその話はまた別の機会に……。
【相談者：20代女性】
私は今、精神科医に恋をしています。その先生には、初診のときからずっと診てもらっています。
最近は体調も安定し、社会に復帰することができました。社会に復帰し安定しているのもあって、病院に行く間隔があいてきました。
初診のときからずっと、「この先生には依存しないできちんと自分の力で歩いていけるようにする」と決めていたのに、いつのまにか好きになってしまいました。
最近は、思いを伝えるか伝えないかで迷っています。思いを伝えたら担当が変わって、先生に会えなくなるかもしれない。
でも、思いを伝えなかったら辛くなるかもしれない。どちらにしても後悔が残りそうで迷っています。こういうときはどうしたらいいのでしょうか。
Ａ．白黒つけず、ただ“気持ちを知ってもらう”という道もある
人生の迷宮脱出ガイド、心理分析士の咲坂好宥です。
ご体調が安定して社会復帰もされたとのこと、まずはおめでとうございます。
乗り越えてこられたのはあなたやご家族がご病気にしっかり向き合われたのはもちろんですが、ご担当医のお力も大きいのでしょうね。
そんなご担当医に恋をされているとのことですが、片思いというのは何とももどかしくて苦しいものですよね。とても切ない時間を過ごされていることと思います。
でも、ここでひとつだけ振り返っていただきたい、とても重要なことがあるのです。あなたはご病気がきつかったころ、誰かを好きになったりできましたか？
おそらく、そんな余裕はなかったのではないでしょうか。
相手が誰であれ、人を好きになるという気持ちを思い出せたというのは、あなたがそれだけ元気になられたということ。
それはまるで冬の間、深い雪の下で抑えつけられていた種が、春になって芽吹くようなものです。その片思いのつらさは、元気の裏返しなのです。
その幸せを、よく噛みしめてくださいね。
思いを伝えない方がいいのか
さて、あなたは思いを伝えるにしても伝えないにしても後悔が残りそうで迷われていますが、たしかにどちらを選んだとしても、リスクはありそうですよね。
まず、“思いを伝えない場合”について考えてみましょうか。
コーネル大学の心理学者トマス・ギロヴィッチ教授が、高齢者に対して「人生最大の後悔」についてアンケートしました。
ここでは、その結果が参考になるかもしれません。
教授によると、回答の75％が「しなかったことに対する後悔」でした。
具体的には、勉強しておけばよかった、チャンスに精一杯行動すればよかった、家族や友人を大切にすればよかった……などです。
一方、「してしまったことに対する後悔」は25％に過ぎず、具体的には、就職先、結婚相手、子作りのタイミングなどに関する後悔でした。
人生の先輩方の後悔を見る限り、あなたが先生に思いを伝えることは、どちらに転んだとしても深い後悔にはならなそうです。
Old man / francisco.j.gonzalez
思いを伝えた方がいいのか
では、“思いを伝えた場合”について考えてみましょう。
あなたは患者が医者に思いを伝えたら、一体どうなってしまうんだろう……とお感じかもしれませんね。
でも、患者が担当医に恋してしまうというのは、決してあなただけが味わっておられる特殊なケースではありません。
実は、治療のプロセスで恋愛感情を持つというのは、非常に多いことなのです。
あなたの思いを聞いて、先生もあなたに対して恋愛感情を抱くかどうかはぼくにはわかりませんし、ご担当が変わるかどうかもわかりません。
でも、先生は精神科のプロですから、患者さんに恋愛感情を持たれたことで狼狽したり、冷静さを失ったりすることはありませんので、その点だけはご安心ください。
少なくとも、今あなたの感情がそのような状態にあるという事実を知ることだけでも、先生にとってはとても重要なことではないかと思います。
白黒つけない、という道
先生に思いを伝えるかどうかは、どちらを選ばれても正解・不正解なんてありませんが、思いを伝えたとしても大騒動にならないということだけはご理解いただけたかと思います。
最後になりますが、思いを伝えるってどういうことでしょうか。
「私はあなたが好きです」という言葉の先にあるのは、「付き合う、付き合わない」という二者択一の世界だけではなくて、ただただ“気持ちを知ってもらう”という道もありますよね。
それに対する見返りなんて何もいらないし、白黒つける必要もないから、ただこの気持ちを知ってほしい……。これなら、先生を困らせることはないように思いますよ。
あなたのココロが、軽やかになりますように！
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【参考文献】
・『その科学が成功を決める』（リチャード・ワイズマン・著、文藝春秋）
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今日も最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。
咲坂好宥
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